「大人っぽさと可愛さを兼ね備えた花柄」というオーダー。その言葉をそのまま図案にするだけでは、本当に求められているデザインには届きません。参考資料の読み解き、ブランドの背景、顧客層の変化、現在の売れ筋など、さまざまな要素を組み合わせながら、クライアントのイメージとデザイナーの表現を少しずつ近づけていく。テキスタイルデザインに欠かせない、イメージのすり合わせについてご紹介します。

1. オーダーの言葉だけでは見えてこない、本当に求められているデザイン
テキスタイルデザインのご依頼では、「大人っぽさと可愛さが混在する柔らかな花柄」といったイメージをいただくことがあります。しかし、その言葉だけで具体的なデザインの方向性が決まるわけではありません。
まず必要なのは、すぐに描き始めることではなく、オーダーの背景を深く理解することです。ブランドが目指している方向性や現在のトレンド、これまでの商品の中で売れ行きが好調なデザイン、そしてブランドを支持している顧客層などを複合的に考えていきます。
例えば、20代前半の女性を中心に可愛らしいデザインを展開してきたブランドが、年数を重ねる中で少し大人っぽい表現を求めるようになることがあります。
この場合、従来の可愛らしさをすべて手放してしまうと、これまでブランドを支持してきたファンの期待から離れてしまう可能性があります。
そこで、可愛さを70%、大人っぽさを30%程度にするようなバランスを考えます。これは単純な数値の話ではなく、ブランドが積み重ねてきた魅力を残しながら、少しずつ新しい表情へと変化させるための考え方です。
目の前のオーダーだけにとらわれず、その背景にあるブランドの意図を読み取ることが、デザインの出発点になります。

2. 参考資料のどこを気に入っているのか、丁寧に読み解く
デザインのご依頼では、複数の参考資料をいただくことも少なくありません。例えばA・B・Cの3種類の画像があった場合、それらを均等に取り入れればよいというわけではありません。
なぜなら、クライアントがそれぞれの資料のすべてを気に入っているとは限らないからです。
Aは色の雰囲気が好き。Bは柄の構成が気に入っている。Cは全体から受ける印象が理想に近い。このように、資料ごとに評価している部分は異なります。
そのため、「この資料のどこが気に入っていますか?」という質問を通じて、一つひとつの要素を確認していきます。
さらに、3つの資料の中で最も理想に近いものはどれなのか、どの資料を出発点にすればよいのかを確認することも重要です。
資料を単に並べて眺めるのではなく、そこに込められたクライアントの好みや意図を読み解くこと。この作業によって、テキスタイルデザイナーとクライアントの間にあるイメージのずれを少なくしていきます。

3. 残す部分と置き換える部分を見極め、新しいデザインへ
方向性が見えてきたら、いよいよ具体的な制作に入ります。
ただし、参考資料があるからといって、そのまま複製することはできません。著作権などの権利関係にも配慮しながら、独自の表現へと再構築していく必要があります。
そのため、制作に入る前には、参考資料の雰囲気や要素を生かしながら、一定のアレンジを加えて新しいデザインに仕上げることをお伝えします。
例えば、Cの資料を特に気に入っていただいていたとしても、そのすべてが必要というわけではありません。
「この花の形や色の組み合わせは残したい」「背景の構成は変えてもよい」「葉の表現は別のものに置き換えたい」といった具合に、必要な部分と変更できる部分を整理していきます。
気に入っている要素は残し、不要な部分は置き換える。さらに、別の資料から得たニュアンスを組み合わせたり、要素を間引いたりすることで、元の資料には存在しなかった新しいテキスタイルデザインが生まれます。
単に複数の資料を混ぜ合わせるのではなく、それぞれの魅力を理解したうえで再構成することが、テキスタイルデザイナーの技術と経験が生きる部分です。

4. キャッチボールを重ねることで、イメージは一つのデザインになる
テキスタイルデザインには、最初から明確な正解が用意されているわけではありません。クライアントのイメージとテキスタイルデザイナーの表現を近づけるには、制作の過程で何度も確認し、意見を交わしながら方向性を整えていくことが大切です。
最初のオーダーから少しずつ具体性を持たせ、参考資料の読み解き、要素の選択、組み合わせ、置き換え、そして細かな調整を重ねていきます。
新しい商品を展開するということは、今までにないものを生み出すということです。しかし、それは必ずしもすべてをゼロから考えることではありません。
これまで培われてきたブランドの魅力を残しながら、新しい要素を加える。必要なものを組み合わせ、不要なものを間引き、別の表現へと置き換えていく。その積み重ねによって、新しいデザインが形になっていきます。

ALBAでは、いただいたオーダーをそのまま図案にするのではなく、その背景にある思いやブランドの方向性まで理解したうえで、一つひとつのデザインをご提案しています。
クライアントとの対話を重ねながら、まだ形になっていないイメージを具体的なテキスタイルデザインへと導いていく。それもまた、私たちが大切にしているデザインの仕事です。
株式会社ALBAテキスタイルデザイン事務所へのご依頼ご相談・お見積もりはお気軽にどうぞ。
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執筆:代表取締役・テキスタイルデザイナー安田信之:株式会社ALBA・[ 著者情報 ]