筆の速度が生み出す表情には、見えない時間が宿ります。速く走る筆は鋭く、ゆっくり進む筆は柔らかく。速度の違いが、テキスタイルデザインにリズムと感情を生み出し、テキスタイルデザインに唯一無二の“動き”を与えます。

速く走る筆跡が生む、シャープな躍動感
勢いよく筆を動かすと、線は鋭く、まるで風を切るようなスピード感を帯びます。筆圧や速度が増すにつれ、インクの細い部分と滲みが対照的に現れ、視覚的な緊張感が生まれます。この写真では、筆先が紙を一瞬で駆け抜けた軌跡が写し取られています。こうした速い筆跡は、テキスタイルに躍動的な印象を与え、動きを感じさせるデザイン要素になります。スピードを「描く」という行為が、静止する平面にリズムをもたらすのです。


ゆっくり描く筆先が奏でる、やわらかな時間
一方で、筆をゆっくりと動かすと、線は豊かな表情を見せます。インクが紙にじわりと沁みこみ、ところどころで息づくような“間”が生まれます。写真に写るトポトポとした線は、かわいらしさや人間味を感じさせ、素材の温度を伝えます。速い線と対照的に、このゆったりとした筆跡には、余韻や静けさが宿ります。テキスタイルデザインにおいて、この「遅い線」は作品全体のリズムを整え、穏やかで詩的なムードを演出する重要な要素となります。


複合的に使う筆使い
テキスタイルの中には、速い速度のラインと遅い速度のラインが複合的に混ざっていることが多くあります。花芯の中心は、ゆっくり丁寧な筆跡が適していますが、花びらや葉の躍動感には速い速度の筆跡が効果的です。このように1枚の絵、一つの物語を伝えるデザインの中で速度の異なる筆跡を取り入れることで、静止画としてのテキスタイルでも、豊かな躍動感を持つデザインへと昇華させることができるのです。