古来より人々はいろいろなものに絵を描いて生きる知恵や願いを記録してきました。その痕跡は時を超えて今に残り、未来へ祈りや経験を繋げています。私たちテキスタイルデザイナーも、布に思いの痕跡を刻み、着る人の心を動かすデザインを紡ぎ続けています。

壁画に込められた祈りと記憶
旧石器時代の洞窟壁画は、ただの装飾ではありませんでした。狩りの方法や生活の知恵を記し、獲物への祈りや共同体の儀式の場にもなりました。ラスコーやアルタミラの壁画には、野牛や馬が精緻に描かれ、描いた人々の想いや願いが読み取れます。壁に絵を刻むことは、一瞬で消える言葉と違い、風化しない限り未来へ残るメッセージでした。絵は、過去の人々から未来に向けた強い意志や祈りが込められた痕跡だと言えるでしょう。

絵がつなぐ未来へのタイムマシン
太古の人々は、絵が未来の誰かに届いて理解されることを願い、洞窟の奥深くに大切な情報や祈りを描きました。その空間には特別な意味が宿り、描くという行動自体が儀式的で神聖なものだったのです。絵は単なる視覚表現ではなく、時を超えて受け継がれる“タイムマシン”であり、知恵や文化、願いといった見えないものを形として残す道具でした。絵を描くことは、人と自然、先祖と未来を結び、時空を超えて想いが伝わる仕組みそのものだったのかもしれません。

テキスタイルデザイナーとして描く意味
テキスタイルデザイナーが日々描く図案も、単なる模様ではなく、そこには強い思いや祈りが込められています。布に刻まれるデザインは、過去と現在、そして未来を繋ぐ“記録”の役割を果たします。例えば服地に施された柄は、着る人の気持ちを華やかにしたり、勇気づけたり、時には言葉にできない感情を静かに伝える力を持っています。デザインは単なる装飾ではなく、その色や形、組み合わせに生きる人々の物語やメッセージが宿る非言語のコミュニケーション。テキスタイルそのものが“幸せ”や“心地よさ”を届けるメディアとも言えます。私たちは、こうした思いを乗せたデザインを残すことで、人の心に寄り添いながら時代を超えて受け継がれる価値を創造します。

私たちは、なぜ絵を描くのか——それは、人の心の奥にある願いや祈りを形にし、目には見えない思いを届けるためです。テキスタイルそのものが“幸せ”や“心地よさ”を伝えるメディアとなり、描くという行為が、人と人、時代と時代を結びつける架け橋になるのです。そうした思いを乗せたデザインを残すことで、私たちは人の心に寄り添いながら、時代を超えて受け継がれる価値を創造していると確信します。