絵画表現の根源にある「光と影」の世界。その美学を、テキスタイルデザインにも活かすことで、布の上に息づく立体感と透明感を生み出すことができます。ルネサンス絵画から学ぶ“光の方向性”が、素材の魅力を最大限に引き出す鍵です。

1. 絵画の歴史から見る光の表現
光は古来より、芸術家たちにとって命の象徴でした。中世のヴァニタス絵画では暗闇の中から差し込む一筋の光が「生と死」「永遠と儚さ」を語り、レンブラントは独自のライティングで人物や空気の厚みを生み出しました。彼の「レンブラントライト」は、立体感を演出する黄金比的な光の構図として、後世の絵画・写真・映像などに多大な影響を与えています。このように、光の方向性は単なる照明ではなく、作品全体の表情や感情を左右する中心的要素なのです。

2. 光の方向性がもたらす立体感
光の方向性を意識することで、平面上の図像に奥行きが生まれます。正面から光を当てれば全体が均一に見え、柔らかな印象を与えますが、斜めや上部・下部から照らすと影が生まれ、形がより際立ちます。陰影のコントラストが強いほど、存在感も強調されます。逆に拡散光を使えば、空気そのものの透明感を表現できます。デザインにおける「光の方向」は、立体的な見え方を操作するための重要な手段であり、意識的に描き込むことで作品の雰囲気や物語性を高めることができます。

3. テキスタイルデザインでの光表現
テキスタイルデザインにおいても、光の方向を意識することで生地の魅力が格段に変わります。透明感のあるシフォンやオーガンジーにプリントを施す際、濃淡のグラデーションやハイライトを効果的に配置することで、空気をまとったような奥行きを表現できます。花の影に淡いトーンを差し込めば、立体感が強調され、動きのあるデザインに仕上がります。平面的に見える布にあえて「光源の存在」を感じさせることで、服として仕立てたときにも自然な立体構成と調和する――この感覚こそ、光を理解したテキスタイルデザイナーの技といえます。


あとがき
平面であっても、空気の動きや湿度、そして光の柔らかな揺らぎを感じさせる表現を大切にしています。奥行きを意識して光と影を丁寧に重ねることで、布の上に生命のような息づかいを与え、みずみずしいテキスタイルへと仕上げていく。目に見えない空気と光の調和が、作品にしか生まれない“透明な存在感”を生み出すのだと考えます。

執筆:代表取締役・テキスタイルデザイナー安田信之:株式会社ALBA