Blog : ブログ

抽象柄の「テキスタイルデザイン制作」:偶然を受け入れて描く

テキスタイルデザイン制作において抽象柄を描くとき、私たちの脳は無意識に花や動物、風景といった具象的モチーフを探してしまいます。だからこそ、形を描くのではなく「偶然の美」を発見する姿勢が重要になります。不確定な過程を受け入れることで、新しいテキスタイルデザイン制作の可能性が広がります。

白地に黄色、黒、グレー、赤の水彩画のような抽象画。.

具象から抽象へ意識を切り替える

写実的な描写に慣れていると、目の前の対象物を正確に再現することが習慣化しています。しかし抽象的なデザインの描き方では、「何を描くか」を決めずに始めることが大切です。人の脳は曖昧なものを見つけるとすぐに「顔」や「花」などの具体的な形に置き換えてしまう性質を持っています。例えば、逆三角形に配列された3つの点などを見ると、途端にそれを人の顔だと認識してしまいます。「シミュラクラ現象(simulacra effect/類像現象)」などが、それに当たります。その無意識の働きを一度止め、自分の中にある感覚だけを頼りに線や形を生み出してみましょう。意味がない形に手を動かすうちに、自然と独自のリズムや構成感覚が生まれます。これが抽象柄を生み出す第一歩であり、自由に対して意識的に向き合う訓練でもあります。テキスタイルデザイン制作では、この発想の転換が重要な鍵になります。

青、黒、茶色、白で描かれた抽象的なカモフラージュ柄。.

不自由を自らに課してみる

具象的な描写では、描きたいところに正確に線を引けることが強みです。しかし抽象柄の制作ではその逆で自由さが、かえって想像を制限してしまうことがあります。そこで効果的なのが「不自由を自分に課す」方法です。鉛筆や筆といった思い通りに動く道具をあえて使わず、例えば絵具を垂らす、紙を丸めて絵の具をつけ描いてみる、手や指で描く、色紙をちぎって、コラージュしてみる、またはスポンジなど異素材を使って描くなど。意図的に制御を外すことで、予想外の形や動きが現れます。その不確定な要素が脳の制御を超え、新しい構成や動きを導いてくれます。コントロールできない現象を受け入れることで、表現の奥行きが増し、テキスタイルデザイン制作に独自の風合いが加わります。

鮮やかなブルーを背景に、半透明の白い布が渦を巻いて、スーツ姿の人物が見えない。.

形を“見つける”プロセスへ

偶然に生まれた模様の中には、意識して描いたものにはない生命感や呼吸があります。抽象柄の魅力は、それを「描く」ことよりも「見つける」ことにあります。作品を前にし、どの部分に惹かれるか、どんな流れや配置が美しいかを観察しながら再構成するのです。自分の意図を押しつけるのではなく、偶然の中に潜む秩序や美を丁寧に拾い上げていく。その積み重ねが抽象的なテキスタイルデザインの深みを作ります。完成の形を最初から決めず、自然に現れる動きを信頼すること。そこから生まれるデザインは、見る人に想像の余地を与え、抽象の中に「感性の物語」を感じさせます。

執筆:代表取締役・テキスタイルデザイナー安田信之:株式会社ALBA

関連記事はこちらから