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「描き足すか、手を止めるか—テキスタイルに生まれる余韻」—筆を置く瞬間の意味

テキスタイルデザインは、完成させすぎない余白の美学。描き手がすべてを語るのではなく、着る人が自らの感性で物語を完成させる。その瞬間こそ、布が真に命を帯びる時間です。

鉛筆の横に、茶色の表面に白い花と緑の葉のスケッチ。.

「筆を置く勇気が作品を決める」

テキスタイルデザインにおいて最も難しく、そして大切なのは「どこで筆を置くか」という決断です。絵画であれば描き手が思うままに描ききることが最善とされますが、テキスタイルはそれとは少し異なります。洋服の上に広がる模様は、生活の中で人の心や姿に寄り添いながら完成していくもの。だからこそ、少し物足りない、もう一歩描きたいというところで敢えて手を止める勇気が、豊かな余白を生み出します。

色鉛筆で花をスケッチする手と、青と黄色の水彩のアクセント。.

「余白を着る人が埋めていく」

仕上げきられなかった部分は、決して欠点ではなく「使い手への委ね」です。その洋服を身にまとう人が、自分の感情や記憶、日々の体験をそこに重ね合わせて初めて完成します。見る人の感性によって補われる余白は、単なる模様を超え、自己表現の一部となるのです。テキスタイルとは描き手と着る人の共同作業。布が身体を包み、空白が埋められることで、一枚の洋服は世界にひとつだけの表現へと変わっていきます。

白地に淡いパステルカラーと細い線で描かれた花の繊細なスケッチ。.

私の師には『図案は完成させたらあかん。』と教わりました。描き手はすべてを語りきらず、余白を残すことで完成し筆を置きます。その余白を埋めるのは着る人の感性。人がまとうことで初めて生きた物語へと姿を変えるのです。