テキスタイルデザイナーやグラフィックデザイナーとして独自の世界観を持ちながら、美しいものづくりを続ける方へ。営業という言葉には距離感や苦手意識を持ちやすいかもしれません。「デザイナーに営業は必要なのか?」──多くの方が抱く疑問ではないでしょうか。
本記事では、テキスタイルやグラフィックなど感性を軸とするデザイナーが、自身の世界観を生かしながらクライアントと関係を築く「6つの実践ステップ」を紹介します。

目次
テキスタイル&グラフィックデザイナーにも営業スキルが必要な理由
デザインの良さを世に広めるために、クライアントと直接向き合う場面は避けられません。営業が苦手な方でも、その場が「売り込みの瞬間」ではなく「価値を語り合い、共感を生む時間」に変換するだけで大きく変わります。成約率の向上には、深い傾聴と的確な提案が不可欠なのです。
デザイナーが実践できる営業の「6つの実践ステップ」
営業プロセスは抽象的に思われがちですが、具体的で再現性のあるステップがあります。感性と論理、両方を活かしながら、以下の流れを繰り返していくことで仕事の質と信頼を築きます。

1. 情報収集(初回訪問での観察と傾聴)
まず大切なのは、「初回訪問は手ぶらで」「五感を研ぎ澄ます時間に」相手の声や会社の空気、スタッフの表情など「見えない情報」を感じ取ること。そこにはクライアントが大切にしている価値観や理想が詰まっています。心でキャッチしたその情報こそ、後の提案の核になります。
営業のスタートは徹底した情報収集です。訪問先の物理的な空間や社員の話し方、仕事の進め方などから、クライアントのニーズと本質的な課題を自分の感性で掴みます。ここで得た生情報が提案の土台を作り、相手の期待からズレない営業へと繋がります。
2. 傾聴と共感の深化(相手の話を聞き心に寄り添う)
ただ話を聞くのではなく、相手の言葉の裏にある想いや理由を探ることが重要です。デザインは人に寄り添う仕事。一緒に悩み、一緒に答えを見つける姿勢は、互いの信頼関係を強固にします。この段階での丁寧な傾聴が次の提案の受け入れやすさを左右します。
3. 提案(デザインの魅力を活かした具体的なプレゼン)
得た情報をもとに、ただデザインを伝えるのではなく、相手の課題や願いをどう実現できるかを示します。提案は双方向の会話のスタート。押し付けない、自分の世界観を相手の視点に寄せることがポイントです。視覚資料や具体例も効果的です。

4. 反応の読み取り(顕在・潜在ニーズの正確な把握)
言葉だけでなく、表情や沈黙、反応の間なども細かく観察します。営業は「相手の心を測る仕事」ともいえます。リアクションの裏に本当の関心や不安が隠れていることが多いため、聞き返しや確認を積極的に。
5. 再提案と調整(お互いの理解を深める共創プロセス)
フィードバックを反映し、何度も調整することで提案はブラッシュアップされます。デザイン提案も営業提案も同様に、一方通行ではない相互コミュニケーションこそが効果を出す鍵です。クライアントとの距離が縮まるほど、次の紹介やリピートに繋がりやすくなるでしょう。
6. クロージング(自然な納得感を引き出す合意形成)
契約の締結はゴールではなく、新しい関係の始まり。無理に押し切るのではなく、相手が自分の言葉で「これなら任せたい」と感じる状態にすることが大切です。ここまでのプロセスで培った信頼や共感が、クロージング成功の土台です。

おわりに:営業スキルはデザイナーの感性の拡張
デザイナーの魅力は感性と表現力にありますが、営業はその魅力を相手に届け、共感を広げるための役割です。絵を描くことと距離を感じやすい営業も、本質は「聞くこと」「理解すること」。この両輪を意識しながら、お客様と共に歩む日々を大切にしていくことで信頼関係の構築が実現します。
デザイン提案を通して信頼を深める具体的な方法については、関連記事:デザイン打ち合わせは「御用聞き」ではなく「道案内」–もあわせてご覧ください。
執筆:代表取締役・テキスタイルデザイナー安田信之:株式会社ALBA・[ 著者情報 ]