「空気を描く」とは、形のないものを可視化する感性のこと。対象と対象の“間”をどう扱うかによって、絵もデザインも豊かに息づきます。時間を経て気づいた、見えない空気を表現するための視点を、テキスタイルデザインの観点から紐解きます。

デッサンから学んだ「間」を描く力
学生時代、デッサンの授業で「もっと空気を描きなさい」と先生に言われたとき、その意味がすぐには理解できませんでした。空気は無色透明で、どう描けばいいのか分からなかったのです。しかし年月を経て絵と向き合い続けるうちに、空気とは“目に見えない間”を指しているのだと感じるようになりました。

例えば2対の神が向き合う屏風絵の図などに見て取れる、左右に配された二神の動きや向き合い方の中に、中心の緊張や震える空気が見えます。空気そのものを描いているわけではなく、構図やポーズを通して“間”を表現している。絵画における間とは、呼吸のように作品全体の命を支える存在なのだと実感しました。

テキスタイルにおける空間表現の美
テキスタイルデザインにおいても、「空気を描く」という考え方はとても重要です。モチーフで画面を埋め尽くすのではなく、あえて余白を設けることで、その間に物語が生まれ、デザインに深みと広がりが加わります。 たとえば花柄の構図であれば、中央にボリュームのあるブーケを配置し、その周囲に柔らかな空間を設ける。その空間こそが、空気の存在です。単体のモチーフだけでは生み出せない“間”が、布全体にリズムと呼吸をもたらします。 空間を意識して描くことによって、柄の中に穏やかな緊張と流れが生まれ、手仕事ならではの空気感が布の上に静かに漂うのです。

執筆:代表取締役・テキスタイルデザイナー安田信之:株式会社ALBA