テキスタイルデザインで大切なのは、完成した柄そのものだけではなく、そこに至るまでのプロセスです。仕上がりのイメージから逆算し、どの道筋を通って形にしていくか。そのプロセスを意識的にデザインすることが、クライアントの求めるニュアンスに近づく近道になります。

完成イメージから逆算するということ
テキスタイルデザインでは、まずクライアントの要望と完成イメージを丁寧に言語化するところから始まります。 そこから「どのようなプロセスを踏めば、そのイメージにたどり着けるのか」を逆算していきます。 例えば、シャープなラインを出したいが、コンピューターグラフィックのような無機質さは避けたい場合があります。そんなときは、筆で線を引くのではなく、色紙をカッターナイフでまっすぐにカットし、その断面をスキャンしてデジタルに取り込む方法を選びます。そうすることで、直線的でシャープでありながら、わずかな揺らぎや柔らかさを含んだラインになります。このように、素材や道具の選択からプロセス全体を設計することも、デザイナーの重要な仕事だと考えています。

プロセスをデザインするデザイナーの役割
完成までのルートは一つではありません。モチーフをひとつずつ別々に描き、それらを後からデジタルで構成する方法もあれば、絵画のように紙の上でバランスを整えながら一枚の絵として描き上げ、デジタルではリピート調整だけを行う方法もあります。 ここで大切なのは、単に最短距離や効率だけを優先しないことです。どのような手順で、どれくらい手をかけ、どの作業をどの順番で重ねていけば、求める質感やニュアンスに近づくのかを考え続けることが重要です。 そのプロセス設計の精度が、最終的な仕上がりの深みや説得力に直結します。プロセスを含めてデザインできるかどうかが、テキスタイルデザイナーの「デザインする力」が問われるポイントだと感じています。

後書き
テキスタイルデザインにおいて「プロセスをデザインする」という考え方は、とても重要なスキルです。どれだけ多くの手法やアプローチの引き出しを持っているかが、デザイナーの力になります。グラフィック提案は一度で採用されることもありますが、「どこかイメージと違う」「ニュアンスがしっくりこない」といった手直しが入ることも少なくありません。そのとき、プロセスにバリエーションがなければ、途端に行き詰まってしまいます。多様なプロセスの引き出しを持っていることは、クライアントの要望に柔軟に応え、満足度を高めていくための大切なツールなのです。
執筆:代表取締役・テキスタイルデザイナー安田信之:株式会社ALBA・[ 著者情報 ]