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外へ向かうデザインと、内を見つめるアート・テキスタイルデザインと創作

一概にこうと言い切るのは少し乱暴かもしれませんが、テキスタイルデザイナーは「誰かのため」に、作家は「自分自身を見つめて」作品を生み出します。どちらも「創る」という行為に変わりはありませんが、そのベクトル、つまり心の向かう方向には大きな違いがあります。
私はその違いを日々の仕事の中で強く感じています。そして、その違いこそが作品の表情や、人の心に残る余韻の深さを決めているのかもしれません

“誰かのために”生まれる模様 ― 外へ向かうテキスタイルデザイン

テキスタイルデザイナーの創作は、基本的に「外」へ向かっています。誰かが着る服、誰かの部屋を彩るカーテンやファブリック。その「誰か」の存在を常に意識しながら、形や色を組み立てていくのが私たちの仕事です。心理学の言葉で言えば、これは“外部志向的動機付け(extrinsic motivation)”という考え方に近いでしょう。

柄を描くとき、私は「この生地を着た人が少しでも元気になれますように」「手に取った瞬間に心が明るくなりますように」と願いをこめます。たとえば、曇りの日でも気持ちが晴れやかになるようなイエローの柄。あるいは、静かな時間に寄り添うような淡いブルーのトーン。そうした配色の選び方一つにも、“使ってくれる誰か”への想像が宿っています。

このように生まれる模様は、日常の中にそっと溶け込み、そばにいる人をやさしく包み込みます。あくまで主役は「人」や「空間」。それを支えるのがテキスタイルであり、そこにデザイナーとしての喜びがあります。

あるクライアントに「この柄を見ていると、自然と笑顔になれる」と言ってもらえたとき、私は心から嬉しくなりました。それは、自分の表現が評価されたというよりも、“誰かの時間を少し明るくできた”という実感があったからです。テキスタイルデザインは、他者との間に美しい橋をかけるような仕事だと感じます。

ブルーの花柄で飾られた白い布の上に横たわる、鮮やかな赤い花と緑の葉の水彩画。柔らかく表情豊かな筆致で、花と布が芸術的に調和している。.

“自分と向き合う”表現 ― 内側から生まれるアート

一方で、作家の作品にふれると、そこにはまったく違う種類のエネルギーが流れています。
アーティストは、自分の内側にある思いや葛藤、衝動のようなものを掘り下げ、それを形や色、質感を通じて表現します。この姿勢は“内在的動機付け(intrinsic motivation)”と呼ばれるものに近く、自らの心そのものが創作の原動力です。

「自分は何に心を動かされているのか」「どんな感情を今、抱えているのか」。
作品は、そうした問いを探るための対話でもあります。決して、誰かに見せるためだけに作られているのではなく、自分自身に向けて放つ“心の鏡”のような存在。

作家の作品に触れると、その静かな強さに圧倒されることがあります。ひとつの色面や筆の動きの中に、言葉にならない心の動きが見える。見る側のこちらの感情まで呼び覚まされ、知らぬ間に自分の内側を見つめ直していることに気づかされるのです。

まるで、作品の前に立つことで、作家と“心の静かな会話”をしているような感覚。
そのとき私は、外の世界を華やかに彩る仕事とは正反対の、内省的な創造の力に深く惹かれます。

オレンジと黄色の光が水面と乾いた筆に反射し、日の出や山火事を連想させる霞んだ風景画。.

想う事・二つの創作のあいだで ― デザイナーとして、ひとりの人間として

筆者は日常的に「誰かのために使われる模様」を描く仕事をしています。
しかし、作家の作品に触れるたびに、胸の奥が強く揺さぶられます。人の心の奥底に直接響くような表現。その純度の高さに出会うたび、「自分は何を感じながら描いているのだろう」と、ふと立ち止まるのです。

“外へ向かう創作”と“内を見つめる創作”。一見、相反するように見えますが、私は最近この二つが実は深いところでつながっているのではないかと感じています。
なぜなら、誰かに喜んでもらうデザインを作るためには、まず自分自身の心が満たされていなければならないからです。どんなに相手を想っても、自分の中が空っぽでは、ぬくもりのある模様は生まれません。

内を見つめる時間があってこそ、外へ向かう表現がより豊かに、しなやかになる。
逆に、他者の喜びを願って描く過程が、いつのまにか自分の心をあたためてもいる。そんな「循環」こそが、創作の本質なのかもしれません。

あるとき、ふと筆を止めて過去のスケッチブックを見返してみると、気づけば私の描く模様の中にも、自分自身の心の動きが少しずつ滲んでいました。優しさを求める日には柔らかな曲線を、迷いのあるときは曖昧な色調を。
それは無意識のうちに「内なる感情」を織り込んでいた証拠でもあります。

心をひらくこと、見つめること

私がいま思うのは、デザインとアートのあいだには決して明確な境界線があるわけではないということです。
テキスタイルデザインもまた、誰かの心を動かす表現であり、アートもまた、見る人の中で新たな感情を芽生えさせる“対話の場”です。根底にあるのは、どちらも「人の心」に向き合うこと。方向は違っても、その目的地は近いところにあるのではないでしょうか。

外の世界にやさしく開かれたデザインと、自分の奥深くを映し出すアート。私はこれからも、その二つのあいだを行き来しながら、模様を描き続けていきたいと思います。
誰かの笑顔を想いながら、同時に自分自身の心を見つめながら。
そのゆらぎの中に、テキスタイルとしての“生きた表現”が生まれていくのだと信じています。


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執筆:代表取締役・テキスタイルデザイナー安田信之:株式会社ALBA・[ 著者情報 ]